入れ歯を使っていると、「痛い」「ずれる」「食べ物が噛みにくい」など、さまざまな不快感を感じることがあります。こうした問題の多くは、実は入れ歯の調整不足が原因かもしれません。
入れ歯は一度作ったら終わりではなく、定期的なメンテナンスが必要な「生きたもの」なのです。適切な調整を受けることで、快適な装着感を維持し、お口の健康を守ることができます。
私は日本歯科大学卒業後、さまざまな歯科医院での勤務を経て、現在は船橋あらき歯科矯正歯科で多くの入れ歯患者さんの治療に携わっています。今回は歯科医師の立場から、入れ歯の調整頻度と重要性について詳しくお伝えします。
目次
入れ歯の調整が必要な理由

入れ歯を長く快適に使うためには、定期的な調整が欠かせません。なぜ調整が必要なのでしょうか?
最大の理由は、私たちの口の中が常に変化しているからです。入れ歯を支える歯ぐきや顎の骨は、時間の経過とともに少しずつ形を変えていきます。特に入れ歯を入れた直後や、長年使用している場合は変化が起こりやすいのです。
調整を怠ると、次のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 痛みや不快感:合わない入れ歯は歯ぐきを傷つけ、口内炎の原因になります
- 噛み合わせの悪化:食事が困難になり、栄養摂取に影響します
- 発音の問題:会話がしづらくなり、社会生活に支障をきたします
- 顎関節への負担:頭痛や肩こりの原因になることもあります
- 残っている歯への悪影響:部分入れ歯の場合、残存歯に過度な負担がかかります
「入れ歯だから仕方ない」と我慢していませんか?
実は多くの方が、入れ歯の不具合を我慢して使い続けています。しかし、適切な調整を受ければ、快適な装着感を取り戻すことができるのです。
入れ歯の調整が必要なタイミング
入れ歯の調整が必要になるタイミングは主に2つあります。入れ歯を作った直後と、使用しているうちに合わなくなってきたときです。
新しい入れ歯を作った直後
新しい入れ歯は、最初からぴったり合うことはほとんどありません。新しい靴を履いたときに靴擦れが起こるのと同じで、お口に慣れるまでに調整が必要です。
どんなに精密な型取りを行っても、入れ歯の材料による寸法の違いや、型取りから完成までの間の歯ぐきの変化により、わずかな不具合が生じることがあります。
この時期の調整は非常に重要です。痛みや違和感を我慢せず、気になる点はすぐに歯科医師に相談しましょう。初期の調整をしっかり行うことで、その後の快適な装着感につながります。
長期使用による変化
入れ歯を長く使っていると、お口の中の環境が変化します。特に以下のような変化が起こります。
- 歯ぐきの痩せ:入れ歯を支える歯ぐきの骨が徐々に痩せていきます
- 顎の形状変化:噛む力や加齢により、顎の形が少しずつ変わります
- 入れ歯自体の劣化:プラスチック部分の摩耗や変形が起こります
これらの変化により、最初はぴったり合っていた入れ歯も、次第に合わなくなってきます。
違和感を感じたら、早めに歯科医院を受診しましょう。小さな不具合も、放置すると大きなトラブルにつながることがあります。
入れ歯の調整頻度の目安
入れ歯の調整頻度は、個人差がありますが、一般的な目安をお伝えします。
新しい入れ歯を作った直後
新しい入れ歯を装着した直後は、比較的頻繁な調整が必要です。一般的には以下のような頻度が目安となります。
- 初期(1〜2週間):1〜2回の調整
- 安定期(1〜2ヶ月):状態を確認しながら数回の微調整
個人差が大きいため、痛みや違和感を感じたらすぐに受診することが大切です。1回の調整で問題なく噛めるようになる方もいますが、複数回の調整が必要なケースがほとんどです。
総入れ歯の場合は、平均して3〜5回程度の調整が必要です。部分入れ歯ではもう少し少なくなることもあります。
長期使用中の定期調整
入れ歯が安定してきた後も、定期的なメンテナンスが必要です。一般的には、半年から1年に一度のペースで歯科医院を受診し、入れ歯の状態をチェックしてもらいましょう。
特に以下のような場合は、すぐに調整を受けることをおすすめします。
- 入れ歯が痛い、または違和感がある
- 入れ歯がグラグラする、または外れやすい
- 食べ物が噛みにくい
- 話しづらい
- 口臭が気になる
どうしても入れ歯が合わない場合は、作り直しを検討することもあります。保険診療では半年間は再製作ができないと決まっていますので、半年調整を続けても合わない場合は、歯科医師と相談して決めることが必要です。
入れ歯調整の実際の流れ
入れ歯の調整は、どのように行われるのでしょうか?実際の流れを簡単にご紹介します。
1. 問診と検査
まず、どこが痛いのか、どのような不具合があるのかを詳しくお聞きします。その後、お口の中の状態や入れ歯の適合状態を確認します。
痛みのある部分や、入れ歯と歯ぐきの接触部分を特に注意深くチェックします。必要に応じてレントゲン撮影を行うこともあります。
2. 調整作業
検査結果に基づいて、入れ歯の調整を行います。主に以下のような調整が行われます。
- 削合調整:入れ歯の内面を少しずつ削って、歯ぐきにフィットさせます
- 咬合調整:上下の歯の噛み合わせを調整します
- 義歯床の修正:入れ歯の床(歯ぐきに当たる部分)の形や大きさを修正します
3. 試適と確認
調整後、実際に入れ歯を装着して、フィット感や噛み心地を確認します。必要に応じて、さらに微調整を行います。
この過程を繰り返し、最適な状態に調整していきます。1回の診療で完璧に調整できないこともあるため、数回の調整が必要になることもあります。
入れ歯を長持ちさせるための日常ケア

入れ歯の調整と併せて、日常のケアも非常に重要です。適切なケアを行うことで、入れ歯の寿命を延ばし、快適な装着感を維持することができます。
毎日の清掃
入れ歯は毎日清掃することが大切です。食後には入れ歯を外して、水でよく洗い流しましょう。入れ歯専用のブラシを使って、表面の汚れを丁寧に落とします。
1日1回は入れ歯洗浄剤を使用することをおすすめします。洗浄剤は細菌やバイオフィルムを化学的に除去し、入れ歯を清潔に保つのに効果的です。
正しい保管方法
就寝時など、入れ歯を使用していないときは、水に浸して保管しましょう。乾燥させると変形やひび割れの原因になります。保管用の水は毎日交換して、清潔に保ちましょう。
熱湯での消毒やアルコールでの消毒は避けてください。入れ歯の変形や劣化の原因となります。
定期的な歯科検診
入れ歯に問題がなくても、定期的に歯科医院を受診することが大切です。半年から1年に一度の検診で、入れ歯の状態や口腔内の健康状態をチェックしてもらいましょう。
早期発見・早期対応が、大きなトラブルを防ぐ鍵となります。
入れ歯の調整に関するよくある質問
Q1: 入れ歯の調整にはどのくらい時間がかかりますか?
入れ歯の調整は、通常30分から1時間程度で終わります。しかし、問題の複雑さによっては、もう少し時間がかかることもあります。
Q2: 入れ歯の調整は痛いですか?
入れ歯の調整自体は痛みを伴いません。入れ歯を外して行う作業がほとんどだからです。ただし、調整後に違和感を感じることはあります。これは通常、数日で慣れていきます。
Q3: 入れ歯安定剤は使っても良いですか?
入れ歯安定剤は一時的な対処法として使用することはできますが、根本的な解決にはなりません。入れ歯が合わないと感じたら、安定剤に頼るのではなく、歯科医師に相談して適切な調整を受けることをおすすめします。
Q4: 入れ歯が割れた場合はどうすればよいですか?
入れ歯が割れたり破損したりした場合は、自分で修理しようとせず、すぐに歯科医院に相談してください。専門的な修理が必要です。
まとめ
入れ歯は一度作ったら終わりではなく、定期的な調整とメンテナンスが必要です。新しい入れ歯は初期に3〜5回程度の調整が必要で、その後も半年から1年に一度の定期検診が推奨されます。
入れ歯に違和感や痛みを感じたら、我慢せずに早めに歯科医院を受診しましょう。適切な調整を受けることで、快適な装着感を取り戻し、お口の健康を維持することができます。
また、日常のケアも忘れずに行いましょう。毎日の清掃と正しい保管方法で、入れ歯を清潔に保ち、長持ちさせることができます。
入れ歯のことでお悩みの方は、ぜひ船橋あらき歯科矯正歯科にご相談ください。患者様一人ひとりに合わせた丁寧な診療と調整を行い、快適な入れ歯生活をサポートいたします。
詳しくは船橋あらき歯科矯正歯科のホームページをご覧ください。土曜・日曜も診療しており、急な痛みなどの当日対応も可能です。
監修医師
医療法人社団高志会 船橋あらき歯科・矯正歯科 院長 新木 志門

経歴
・日本歯科大学 生命歯学部 卒業
・東京医科歯科大学 第二総合診療科
・都内歯科医院 勤務
・医療法人輝翔会 西大津歯科医院 勤務
所属学会
・日本口腔インプラント学会 会員
・顎咬合学会 会員
・歯髄細胞バンク 認定医
